大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 平成2年(行ケ)194号 判決 1991年2月28日

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  原告

「特許庁が昭和五五年審判第二一六九三号事件について平成二年五月三一日にした審決を取り消す。訴訟費用は被告の負担とする。」

二  被告

主文同旨の判決

第二  請求の原因

一  特許庁における手続の経緯

原告は、昭和五〇年六月一三日、別紙に示す構成よりなる商標(以下「本願商標」という。)につき、第二三類「眼鏡、及び、その部品、その他本類に属する商品」を指定商品として、昭和五〇年商標登録願第五九〇一一号と連合する商標として、商標登録出願(昭和五〇年商標登録願第七三五三四号)をしたところ、昭和五五年九月二五日拒絶査定があったので、同年一二月一日審判を請求し、昭和五五年審判第二一六九三号事件として審理された結果、平成二年五月三一日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決があり、その謄本は同年八月八日原告に送達された。

二  審決の理由の要点

1  本願商標の構成、指定商品、登録出願の日は前項記載のとおりである。

2  これに対し、当審において、新たに本願商標の拒絶の理由に引用した登録第一二〇四一七三号商標(以下「引用商標」という。)は、「SEIKO EYE」の欧文字を横書きしてなり、第二三類「時計、眼鏡、これらの部品、及び附属品」を指定商品として、昭和四六年八月一一日に登録出願、同五一年六月一〇日に登録され、その後昭和六一年四月一五日商標権存続期間の更新の登録がなされたものである。

3  そこで、本願商標と引用商標の類否について判断するに、本願商標は、その構成別紙に示したとおりであるところ、全体をもって常に不可分一体のものと認識されるとみるべき特段の事由が存するものとはみられないものであり、構成中看者の注意を強く惹くように顕著に表された「eye」の文字部分は、それ自体独立しても自他商品の識別標識としての機能を果たし得るものと認められる。

しかして、「eye」の文字は、「アイ」と読まれ、「目」を意味する英語として一般世人によく知られているところである。

してみると、本願商標は、構成中の「eye」の文字部分に相応して、単に「アイ(目)」の称呼、観念が生じるものであるといわなければならない。

一方、引用商標は、「SEIKO」と「EYE」の二語よりなるものと容易に理解されるものであり、全体として熟語的意味合いを表したものとはみられないばかりでなく、前半の「SEIKO」の文字は、時計などを扱う業界においては、「株式会社服部セイコー」の取扱いに係る商品あるいは商号の略称を表示するためのものとして、広く知られているものと認め得るところである。

しかして、自己の取扱いに係る商品全部に統一的に使用されるいわゆる「ハウスマーク」とともに、自己の取り扱う同種商品のうち、他の商品と区別するため、商品毎にそれぞれ別のマークを使用することも、普通に行われているところである。

してみると、引用商標に接する取引者、需要者は、構成中の「EYE」の文字部分は、前記の事情よりして、「株式会社服部セイコー」「SEIKO」の取扱いに係る商品のうちの「EYE」印の商品であると理解し、該文字部分のみを捉え、これより生ずる称呼、観念をもって取引に当る場合も少なくないものとみるのが相当である。

そうであるとすれば、引用商標は、構成全体をもって、「セイコーアイ」と称呼される場合のほか、構成中の「EYE」の文字部分に相応して、「アイ(目)」の称呼、観念を生ずるものといわなければならない。

したがって、本願商標と引用商標とは、「アイ(目)」の称呼、観念において類似の商標であり、かつその指定商品も同一のものと認定し得るものであるから、結局、本願商標は、商標法第四条第一項第一一号に該当し、登録することができない。

三  審決の取消事由

1  本願商標は、商標法第七条第一項の規定により昭和五〇年商標登録願第五九〇一一号の連合商標として同法施行規則第一条第二項の規定による様式第二をもって出願したものである。右第五九〇一一号は、その後昭和五三年九月二九日登録第一三四五〇一六号をもって商標登録されたが、昭和六三年九月二九日に至って存続期間が満了し、平成元年一二月一四日登録原簿に存続期間の満了を原因として登録抹消の登録がなされた。

したがって、本願商標は、昭和六三年九月二九日をもって登録第一三四五〇一六号商標と連合関係が断絶され、内実上独立の商標登録願になったものであるところ、かかる場合商標法第六八条の二、第一一条第一項の各規定に徴し、独立の商標登録願に変更する必要があり、また、このように出願変更しないときは、同法第一五条の規定により拒絶査定されなければならず、さらに、同法第五六条第一項の規定により特許法第一五九条第二項の規定が準用されるから、審判手続において独立の商標登録願であるにもかかわらず連合商標登録願になっていることを理由に原告に対し拒絶理由通知をすべきであるのに、本件審判手続においては、これをなすことなく審決したものである。

よって、本件審判手続には、商標法第五六条第一項、特許法第一五九条第二項及び同法第五〇条の各規定に違背する違法があり、右違法な手続に基づいてなされた審決は違法として取り消されるべきである。

2  本願商標の特殊性は、「miyuki」の表示及び本願商標全体と関係性のある十字形輪郭殊に縦方向の輪郭を横方向の輪郭に対し短小にして表示したところに存する。商標の対象認識者は、商標を移動的に認識して全体を把握し、これによって確定した認識をするものであり、商標の一部分を抽出して比較の対象とすべきでない。しかるに、「eye」の文字部分が独立して自他商品の識別標識としての機能を果たし得るとした審決の判断は誤りである。

一方、引用商標を構成する「SEIKO EYE」から「SEIKO」を除去してこれを認識するいわれは全くない。引用商標の個性は、「SEIKO EYE」又は「SEIKO」であって、「EYE」は誰でもが知る一般性、普遍性の文句にすぎず、商標として自他商品を識別する機能はない。

したがって、本願商標と引用商標とからは「アイ(目)」の称呼、観念を発現することはなく、両商標は称呼、観念を異にし、本願商標は商標法第四条第一項第一一号に該当しない。しかるに、本願商標と引用商標とは「アイ(目)」の称呼、観念において類似の商標であるとした審決の判断は誤りである。

第三  請求の原因に対する被告の認否及び主張

一  請求の原因一及び二の事実は認める。

二  同三の審決の取消事由は争う。

審決の認定、判断は正当であって、審決に原告主張の違法はない。

1  本願商標は、昭和五〇年商標登録願第五九〇一一号の連合商標として出願されたものであり、右第五九〇一一号の商標登録・存続期間の満了・登録抹消の経過が原告主張のとおりであることは、認める。

しかしながら、審決は、商標法第五六条第一項において準用する特許法第一五九条第二項において準用する同法第五〇条の規定に基づき、査定の理由とは異なる拒絶の理由について判断したものであり、本件出願について他の拒絶の理由を通知しなかったことにより違法として取り消されなければならないものではない。

なお、原告の引用する商標法第六八条の二の規定は、手続の補正についての規定であって、本件について参照するに由なきものである。

2  本願商標の構成中「eye」の文字は、看者の注意を強く惹くよう、他の文字及び輪郭線よりも特に太く、かつ、濃く描いてなり、しかも、指定商品の効能、用途ないし具体的品質を表示するものとして、一般に使用されているとは認められないところであるから、それ自体独立して自他商品の識別標識としての機能を果たし得るものであって、本願商標の称呼、観念についての審決の認定、判断に誤りはない。

同様に、引用商標の構成中の「EYE」もそれ自体独立して自他商品の識別標識としての機能を果たし得るものであり、引用商標の称呼、観念についての審決の認定、判断にも誤りはない。

第四  証拠関係(省略)

理由

一  請求の原因一(特許庁における手続の経緯)、同二(審決の理由の要点)の事実は、当事者間に争いがない。

二  そこで、原告主張の審決の取消事由について検討する。

1  本願商標は、商標法第七条第一項の規定により昭和五〇年商標登録願第五九〇一一号の連合商標として出願したものであること、右第五九〇一一号は、その後昭和五三年九月二九日登録第一三四五〇一六号をもって商標登録されたが、昭和六三年九月二九日に至って存続期間が満了し、平成元年一二月一四日登録原簿に存続期間の満了を原因として登録抹消の登録がなされたことは、当事者間に争いがない。

原告は、本願商標は、昭和六三年九月二九日をもって登録第一三四五〇一六号商標と連合関係が断絶され、内実上独立の商標登録願になったものであるところ、かかる場合商標法第六八条の二、第一一条第一項の各規定に徴し、独立の商標登録願に変更する必要があり、また、このように出願変更しないときは、同法第五六条第一項、特許法第一五九条第二項、第五〇条の規定により、本件審判手続において、独立の商標登録願であるにもかかわらず連合商標登録願になっていることを理由に原告に対し拒絶理由通知をすべきであるのに、これをなすことなく審決した違法がある旨主張する。

連合商標の制度は、登録商標の禁止権の効力の及ぶ範囲内の商標について、当該登録商標の権利者と同一人によつて出願された場合に限り、商標登録を認め(商標法第七条第一項)、この場合両商標は相互に連合の関係に立ち(同法第七条第二項)、これを分離して移転することができない(同法第二四条第二項)としたものであり、先行登録商標が存続期間の満了により登録を抹消されたときは、これを連合商標とする商標登録出願は同法第七条第三項の規定する連合商標としての登録要件を欠くことになる。この場合、当該出願について商標権の設定登録を受けるには、出願人は同法第一一条第一項の規定により当該出願を独立の商標登録出願に変更する必要があることは、原告主張のとおりである。

しかしながら、右の場合において、当該出願を独立の商標登録出願に変更しても、同法第四条第一項第一号ないし第一五号の規定する不登録事由(登録障害)に該当するときは、商標登録を受けることができないのであるから、特許庁審判官において、独立の商標登録出願に変更しても右不登録事由に該当すると判断したときは、連合商標としての登録要件を欠くことを理由として出願を拒絶するか、同法第四条第一項第一号ないし第一五号の規定する不登録事由に該当することを理由として出願を拒絶するかは、その選択に委ねられるというべきである。このことは、後者を理由に出願を拒絶する通知をした後に連合商標出願に係る先行登録商標の存続期間が満了し、連合商標としての登録要件を欠くに至った場合でも同様であって、このような場合にあらためて同法第七条第三項の規定する登録要件を欠くことを理由として拒絶の通知をしなければならないものではない。

これを本件についてみるに、原本の存在及び成立に争いのない甲第五号証(拒絶理由通知書写)によれば、特許庁審判官は、昭和五九年一二月一九日、出願人(審判請求人)代理人に対し、「本願商標は、登録第一二〇四一七三号(商公昭四八―二三七三〇)商標と類似であって、その登録商標に係る指定商品と同一または類似の商品に使用するものであるから、商標法第四条第一項第一一号の規定に該当する。」との拒絶理由通知をしたことが認められ、その後昭和六三年九月二九日本件連合商標出願に係る先行登録商標(登録第一三四五〇一六号商標)の存続期間が満了し平成元年一二月一四日登録抹消の登録がなされたことは前述のとおりであるが、この場合にあらためて同法第七条第三項の規定する登録要件を欠くことを理由として拒絶の通知をする必要がないことは前記の理由により明らかであるから、本件審判手続には原告主張の違法は存しない。

2  本願商標は、別紙の構成よりなり、縦方向の輪郭を横方向の輪郭に対し短く表示した十字形輪郭内に、「eye」の欧文字を大きく、かつ輪郭線より太く、濃く表し、その下に小さく「miyuki」の欧文字を表示したものであって、右構成からみて、本件指定商品の取引者、需要者に最も強く注意を惹く部分は本願商標の構成中「eye」の部分であることが明らかであるところ、「eye」は、英語で「アイ」と発音され、「目」を意味することは当裁判所に顕著なわが国の英語教育の実情に鑑みれば、右取引者、需要者に広く知られているところというべく、したがって、本願商標は、取引者、需要者に「アイ」と称呼され、「目」を意味すると観念されるというべきである。

この点について、原告は、本願商標の特殊性は、「miyuki」の表示及び本願商標全体と関係性のある十字形輪郭殊に縦方向の輪郭を横方向の輪郭に対し短小にして表示したところに存し、「eye」の文字部分が独立して自他商品の識別標識として機能し得るとした審決の判断は誤りである旨主張するが、取引者、需要者に最も強く注意を惹く部分が「eye」の部分にあることは前述のとおりであり、本願商標は、この部分に着目して「アイ」と称呼され、「目」を意味すると観念されるというべきであるから、原告の右主張は理由がない。

一方、引用商標は、「SEIKO」と「EYE」の欧文字を間隔を設けて横書きしてなり、右構成中「SEIKO」は、わが国における著名な時計等の製造販売業者である「株式会社服部セイコー」の取扱商品ないし商号の略称を表示するものであることは、当裁判所に顕著な事実であり、「EYE」は、英語で「アイ」と呼称され、「目」を意味すると観念されることは前述のとおりである。

そして、成立に争いのない乙第一号証の一ないし五によれば、株式会社服部セイコーでは、同社の販売する時計全部について統一的に「SEIKO」の表示を用いるとともに、各商品を区別するために、「DOLCE(ドルチェ)」、「CADET(カデット)」、「CHARIOT(シャリオ)」、「MAJESTA(マジェスタ)」等のマークを用いていることが取引者、需要者に広く知られていることが認められる。

右の事実によれば、引用商標に接する取引者、需要者は、引用商標の構成中の「EYE」の部分は、株式会社服部セイコーの取り扱う商品のうちの「EYE」印の商品を表示するものと認識するというべきであるから、引用商標は、「セイコーアイ」のほか「アイ」とも呼称し、「目」を意味するとも観念すると認めるのが相当である。

この点について原告は、引用商標の個性は、「SEIKO EYE」又は「SEIKO」であって、「EYE」は誰でもが知る一般性、普遍性の文句にすぎず、商標として自他商品を識別する機能はない旨主張するが、「EYE」の文字は、それがその指定商品の品質、用途等を表示するものと認めるべき証拠も存しない以上、一般性、普遍性のある文字であるからといって自他商品を識別する機能はないとはいえないから、原告の右主張は理由がない。

したがって、本願商標と引用商標とは「アイ」の称呼、及び「目」の観念を共通にする類似の商標であり、かつその指定商品も同一であるから、本願商標は商標法第四条第一項第一一号に該当することが明らかである。

3  以上のとおりであるから、審決の判断は正当であって、審決に原告主張の違法は存しない。

三  よって、審決の違法を理由にその取消しを求める原告の本訴請求は失当としてこれを棄却し、訴訟費用の負担について行政訴訟事件法第七条、民事訴訟法第八九条の各規定を適用して主文のとおり判決する。

(別紙)

<省略>

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例